キオク
第十四話 疑い
「あれ? 勇はどこに行ったんだ?」
「勇? あぁ、春ちゃんに会いに行ったらしいぞ」
只今、就寝前の自由時間。コテージには俺と金成の二人。
勇は春ちゃんへ勝手に会いに行ったらしく不在である。
夜は外に出ていけない決まりになっているのになぁ。ま、勇はバカだし。
「金成はどっか行かないの? 香奈ちゃんに会いに行くとか」
「何言ってんだ! 俺は瑠奈さん一筋だいっ!」
おいおい……お前、今まで香奈ちゃん狙ってただろ。てか、やっぱり千代田さんに惚れたのかい。
「んじゃあ、千代田さんに会いに行かないのか?」
「千代田さんに規則破っちゃダメって言われてるから、会いたくても行かねー!」
何か金成がだんだん真面目君に変わってきてるんだけど。まぁ、その方がいいけどね。
「でもそのかわり……メルアドげっとしますたー!」
「そう、良かったじゃん」
「これから俺の愛がつまったメールを送るぜ! 目標は五分で十通!」
生き生きした表情でとんでもない事を口にする金成。
き、気持ち悪い……何なんだこいつ……
あ、そういえば香奈ちゃん大丈夫かな。事情知ってる人いないから心配だな……
そんなことを考えながら、俺は窓に広がる夜景を眺めた。
一方、別のコテージ──
女性組の三人はウノで激戦中。
二人が苦戦しているのをよそに、里桜ちゃんが手札のカードを三枚同時に繰り出した。
「やったー! ウノ上がりー!」
歓喜の声を上げて、ガッツポーズ。
「えー! 早いよ!」
「つ、強いね。里桜ちゃん」
はぁ、やっぱり私こういうカードゲーム苦手だな……
最近やってなかったから、ルールも曖昧にしか覚えてないし。
「あ、私もスキップ出して上がりだ!」
里桜ちゃんに続くように、瑠奈ちゃんも手札がゼロになって上がり。
結局、私が負けちゃった……しかも手札6枚も残ってるし……
「香奈、また最下位だね。これで五連敗だよ!」
「だ、だって〜」
上手くコツが掴めないんだもん……
「じゃあ、バツゲームね!」
そう言って、床に散らばったカードを揃える里桜ちゃん。
「そ、そんなの聞いてないよ!」
「いいじゃん! いいじゃん!
強引に話を進められ、瑠奈ちゃんも面白そうに笑っている。
何か私がバツゲーム受けなきゃいけない空気?
はぁ、もういいや……どうにでもなっちゃえ!
「そうだねぇ……それじゃあ、星川とどこまでいったのか教えて!」
遠慮なしのドストレートな質問。
た、卓真くんとのこと!?
どこまでいったって聞かれても……なんか困るなぁ。
私、付き合ってた頃の記憶ないし…
「む、無理だよ……秘密だって……」
そう答えると、カードを切っていた里桜ちゃんが顔をずいっと近づけ覗き込んでくる。
ど、どうしたのかな?
「何か最近、香奈って変わったよね」
その言葉に反応するかのように胸がちくりと痛む。
も、もしかして……ばれちゃったのかな?
「確かに……何か前に比べて大人しくなったような……」
瑠奈ちゃんも里桜ちゃんの意見に同意する。
な、何かまずいかも……
「前はいつも元気な感じだったけど……」
「うん。何か今の香奈は香奈らしくない感じがする」
二人とも最近の私の変化に気付いていたらしい。
やっぱり隠すには無理があったのかな……?
「どうしちゃったの?」
「う……」
でも、卓真君に迷惑をかけたくない。
何とかばれないように誤魔化さないと……
「や、ヤダなぁ……里桜ちゃんったら、私はいつも通りだよ!」
「香奈は前、私のことを呼び捨てで呼んでたんだけどなぁ……」
あぁ、痛いところを突かれちゃった。
ど、どうしよう……
「何か隠してるの?」
詰め寄ってくる二人。二人とも疑いの目を私に向けている。
も、もう限界だよっ……
「やっぱ暇だよな〜」
自由時間といってもやることが何もないな。
しかも俺と金成の二人しかいないからカードゲームすら出来ないし。
「で、お前は何で携帯を睨みつけてんの?」
「うぅ……瑠奈さんから返信が来ない……」
なるほど。だから携帯を睨んでたわけね。来ないものは来ないと思うけど。
てか、無視すんな。
「あぁ、暇だ……」
ふと窓を覗きこんでみる。目に写ったのは外の大木にもたれかかっている少女の姿。
「あれ、あそこにいるのって……」
あの髪型に容姿……間違いなく香奈ちゃんだ。
外に出ちゃったりしてどうしたんだろう? 顔も何だか俯いているし。
気になった俺は急いで、コテージを飛び出し香奈ちゃんの元へ向かう。
大木の前には思ったとおり香奈ちゃんが立っていた。
「香奈ちゃん! どうしたの? こんなところで」
「た、卓真く……ん……」
顔を上げた香奈ちゃんの瞳には涙が浮かび、今にも零れ落ちそうだった。
そして──
「もうヤダよぅ……」
弱弱しい言葉を漏らしながら、急に抱きついてくる香奈ちゃん。
今にも消えてしまいそうなその声からは苦しみが感じられた。
2008年3月30日 公開