キオク

第十四話 カレーの作り方(後編)


 その後、水も無事に運び終わりようやく調理に取り掛かる。

 俺と香奈ちゃんが材料を切って、千代田さんと財前が肉、野菜を煮込む。鍋の中から香ばしい匂いが漂う。

 うん。今のところ問題ないな。いい感じ。

 因みに勇と里桜ちゃんはご飯の担当。

 まぁ、相変わらず喧嘩してるけどね。

「あとは、ルーを入れて完成だな」

「そーだね! 楽しみ♪」

 香奈ちゃんははしゃぎながら鍋を覗き込む。

 やっぱり、皆で協力して作るのが楽しいんだろうな。

「よし、じゃあ、そろそろルー入れよっか」

 そう言って千代田さんはルーを一つ、二つと鍋に入れていく。

 三つ、四つ、五つ、六つ……

 七つ、八つ、九つ、ってちょっと待て! 六人分にしてはルーの量多すぎだろ!

「ち、千代田さん! ルー入れすぎだよ!」

「え? 私の家ではこのくらい入れて作るよ?」

 と、なんとも普通に答える。

 ……あなたの家は何人家族ですか?

 結局、ルーを十二個。つまり二箱分も入れてしまった。

 しかも、溶かしながら入れてないし。こりゃダマになるな……。この人ほんとに得意なのかな。料理。

 さらに千代田さんは蜂蜜を手に取る。そして、キャップを外しボトルに入っている蜂蜜をドバッと全て投入。

 一瞬の出来事に俺は呆然。

「ちょ、千代田さん! はちみつ入れすぎ!」

「大丈夫だって。隠し味だよ」

 そんなに入れたら、隠し味にならないって……

 さらに脇では飯盒に異変が。

 飯盒から白い煙が黙々とたちこめ、水滴が次々あふれ出している。

「あんたがちゃんと見てなさいよ! バカ!」

「うるせー! 俺にめんどくさい事させるな! ブス!」

 喧嘩中でその状況に気付かない例の二人。

「お、おい! お前ら飯盒がやばい事になってるぞ!」

「あっ! や、やば!」

 ああ……最悪……この二人に任せるんじゃなかった……

「よし、後はリンゴ入れて完成だね」

 何を血迷ったのか千代田さんはリンゴを丸ごと一個カレーに投下。

 飲み込まれるように沈んでいくリンゴ。

 完全に終わったな……



 こうして完成したカレーとご飯。

 この二つを組み合わせた結果、焦げた物体にべっとりした茶色い物体をかけたなんとも奇妙な食べ物へと生ま

れ変わった。
もはやカレーとは言えない。

 まぁ、ルーを大量に入れた地点で異常な料理が出来るって想像ついたけど……ルー入れるまでは順調だったの

に……


「と、とりあえず食べてみるか」

「そ、そうだな」

 俺の一言で、全員が一口食べてみる。

 こ、これはひどい。甘いような辛いようなそんな微妙な味。後味もざらつきが残って最悪だし。さらに、焦げ

たご飯がデスマッチ。


 それは、今まで食したカレーの中で歴史に残るほど驚愕的な味だった。

 正直、お皿に持った分すら食えないかもしれない。

「千代田さん……このカレー、自分的には何点?」

 さりげなく千代田さんに聞いてみる。

 返答によっては、この人を変わり者認定するぞ。でも、不味いからそんな高い点数は出さないはず。

「え、普通においしいから100点かな? いや、120点?」

 変わり者に認定。これが美味しいって……この人、めちゃくちゃ味音痴だ……この班で唯一まともな人だと思

ってたのに……


「る、瑠奈さん! これめちゃくちゃおいしいよ! 瑠奈さんは料理の天才だ!」

 そこで千代田さんを褒め称えるのが財前。

 気を使っているのか、無理して誉めているようだけど。

「やっぱり〜! んじゃ、もっと食べて! たくさんあるから」

「え……う、うん」

 お世辞を真に受けて、さらにカレーを財前の皿へ持っていく。おまけにカレーへ投下した丸ごとリンゴもトッ

ピング。


 唖然とする財前。

 千代田さんもちょっとズレてるけどあいつもあいつでバカだな。

「さ、そんなにおいしいなら俺のもやるよ!」

「わ、私のも!」

 千代田さんの言葉に便乗して、勇と里桜ちゃんは財前にお皿を差し出す。

 やっぱりあの二人も食えないのか。仲間がいてほっとした。

「そ、そんなこと言わないでお前らも食べろよ! おいしいぞ?」

 財前はそう薦めるが──

「だって、めちゃくちゃおいしいんでしょ? だから金成にたくさん食べてほしくてさ」

「ああ、俺も金成に食ってほしい」

 と、簡単に切り返される。

 里桜ちゃんと勇、明らかになすりつけようとしているな。てか、何でこういう時だけは喧嘩しないんだ?

「わ、分かったよ! 俺が全部食う! お前らには一口も食わせないからな」

 そう言って勇と里桜ちゃんの皿を強引に奪い取る。さらに俺や香奈ちゃんの皿まで取り上げた。

 あれ? 俺、やるなんて言ってねーぞ? まぁ、ありがたいけど。

「もう、財前君。欲張りなんだから」

 こいつ確実にお腹壊すな……

 ご愁傷様。でもその勇気しかと見届けたぞ。

「だ、大丈夫かな?」

「まぁ、いいんじゃない?」

 香奈ちゃんの心配をよそに、俺は哀れな目で財前の食する姿を見ていた。



2008年2月24日 公開







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