キオク

第十二話 カレーの作り方(前編)


 早速、料理の準備にとりかかる六人。

 千代田さんが仕切りながら役割分担をしていく。

「んじゃあ、名取君と里桜は水汲みに行って。後は……星川君達は薪を持ってきてくれないかな?」

「うん。わかった」

 俺と香奈ちゃんは薪を運んでくる係に任命される。

 が、横では水汲み係に任命された問題児二人の言い争い。

「こんなやつと水汲み行くなんてやだー!」

「俺だってお断りだ!」

 あーまた始まった……

 何で勇と里桜ちゃんってこんなに仲が悪いんだろうか……

「まぁ、そう言わないで行ってきてよ」

 千代田さんはそう促すが──

「ヤダ!」

 そろって同じ言葉を口にする勇と里桜ちゃん。

「真似すんな! このブズ!」

「そっちこそ真似しないでよ! このアホ!」

 声がそろったことにより、さらに喧嘩に拍車がかかる。

 そんな状況に千代田さんは困惑気味だ。

「ほらほら二人とも! やめるんだ! 瑠奈さんが困ってるじゃないか!」

 困っている千代田さんを救済するため、財前もかっこつけて説得を試みる。

「貧乏人は黙ってろ!」

「………はい」

 が、一発でノックアウト。

 もはや千代田さんも財前も止めることが出来ない『焼け石に水』状態。

 ……しょうがないな。俺も喧嘩を止めにかかるか。こんなに喧嘩ばっかりされていたら調理が進まないし。

「二人とも、そんなに言い争ってたら昼飯食えなくなるよ。それでも喧嘩したいならいいけど、お腹減るでしょ

?」


 俺はもっともなことを二人に言ってやる。

 二人は一瞬黙り込み──

「ほ、ほら、行くぞ。ブズ!」

「い、いちいちうるさいな! バカ!」

 不に落ちない表情でようやく二人は歩き出した。

 まだ喧嘩してるけど、とりあえずは成功かな?

 勇と香奈ちゃんが水汲みに向かった事を確認し、俺は安堵の息を漏らす。

「ふぅ……何で最初からこんなに疲れなきゃいけないんだ」

「あ、あはは……た、卓真くん。私達も行こう」

 苦笑いしながら香奈ちゃんは腕を掴んでくる。

「あ、うん」

 そして俺と香奈ちゃんは薪調達へと向かった。


 薪はバンガロー脇の木材置き場に束で用意されていて、そこから自分達の班の場所まで運んでいかなればなら

ない。


 そんなわけで木材置き場に到着した俺と香奈ちゃん。

「えっと……どのくらいいるんだっけ? 四束?」

「そうだね」

 とりあえず俺は多めに持つことに。香奈ちゃん女の子だから大変だろうし。

 束になった薪を一つ、二つと掴んでいく。

「大丈夫? そんなに持っちゃって?」

「うん。香奈ちゃんに負担かけさせたくないからね」

「……ありがと」

 香奈ちゃんは輝くような笑みを浮かべてお礼の言葉を口にする。

 そう言われるだけで幸せだ……

 そして、俺は三束分、香奈ちゃんは一束分を班のところへと運んでいく。



 俺達が戻ると、テーブルには料理に使われるいろいろな材料が並べられていた。

 しかし、明らかに何かが足りない。

「えっと……何でにんじんと玉ねぎがないんだ?」

 今現在テーブルに置かれている物は米、カレーのルー、ジャガイモ、豚肉、そしてリンゴだけ。そう、カレーの

メイン材料としてお馴染みのにんじんと玉ねぎがない。


 そこで、材料調達係の財前がめんどくさそうに口を開く。

「だって俺、にんじんと玉ねぎ嫌いだし」

 どうやら、財前の中でこの二つの野菜は選考対象から外されていたらしい。

 って、ちょっと待て! お前は小学生か! そんな理由で持ってこなかったのかい! 俺は普通ににんじんと玉

ねぎが食べたいぞ!


 そこに千代田さんが調理用の鍋を手に持ちやってくる。

「どうしたの?」

「千代田さん。テーブルに置かれた材料見てどう思う?」

 そう問われた千代田さんはテーブルの異変を一発で見抜く。

「あ、野菜が足りないね。もしかして財前君がにんじんと玉ねぎ嫌いだから持ってこなかったとか?」

 す、鋭い……さすが千代田さん……

「ダメだよ、そんな自分勝手なことしちゃ。ちゃんと私がおいしく作ってあげるから食べてほしいな」

 千代田さんは財前ににっこりと微笑む。

 瞬時、財前は背筋を伸ばし右手をピッと上げて敬礼。

 ……お前は軍人か。

「は、はい! 瑠奈さんの作ったものなら喜んで食べます!」

「そう。じゃあ、にんじんと玉ねぎとってきてね」

「はい! 今取ってきますので待っていてください!」

 そう言葉を残し、やけに上機嫌のまま走っていく。

「あいつ、千代田さんにやけに弱いな……てか、千代田さんって料理得意なの?」

「うん。それなりに出来るよ」

 得意げに返答する千代田さん。

 まぁ、千代田さんなら美味しいカレー作れそうだな。この班で唯一まともな人だし。

「それじゃあ、千代田さんを中心にして作ろうか」

 と、結論付けた時、あの問題児二人が戻ってくる。

 勇と里桜ちゃんだ。二人とも何故か全身びしょ濡れである。

「……何で二人ともびしょ濡れなの? しかも名取君のバケツに水が全然入ってないだけど……」

 見るとバケツの中には水が入っておらず空っぽだ。

 あれ? この人たち水汲みに行ったんだよね?

「ブス里桜のせいだ!」

「うるさい! バカ勇のせいじゃん!」

 里桜ちゃんはバケツに半分残った水を豪快にぶっかける。勇はさらにびしょ濡れに。

 あぁ、そうか。喧嘩がヒートアップして水を掛け合ったってわけね。

「げ! や、やめろブズ!」

「ブスって言うな! ブスって言うな! ブスって言うな!」

 そう連呼しながら、バケツでおもいっきり勇の頭を数回叩く。

「いで、あでっ! く、くそ! この女!」

「はぁ……とにかくもう一回水汲み行ってきて……」

 溜息を吐き、あきれ果てている千代田さん。わかるよ、俺も同じ気持ちだから。

 二人は口喧嘩を続けたまま、また水汲みへと向かう。

 はぁ……こんなんで本当にカレー完成するのかな……かなり不安になってきた……



2008年2月23日 公開







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