キオク

第十話 嵐の予感


「う〜ん……どうしたらいいんだろ?」

「私は違うクラスだからサポートしにくいよねぇ……」

「んじゃあ、俺が春ちゃんのサポートを……ぶぎゃっ!」

 勇の頬に春ちゃんの平手打ちが炸裂。勇、死亡……

 ここは学校の屋上。

 俺と春ちゃん、ついでに勇。この三人で丸くなりひっそりと会議中だ。

 そして横にあるベンチでは香奈ちゃんがちょこんと座り昼食をとっている。

「そ、そんなに心配しなくていいよ」

 香奈ちゃんはそう言うが……

「ダメだよ! 下手したらばれちゃうんだから!」

「はぁ……」

 会議内容は林間学校について。

 この学校では夏休み前に一年生限定でこの行事が行われる。班行動が主流で班編成は男子女子それぞれ三人ず

つ計六人。
幸いにも香奈ちゃんと俺、ついでに勇の三人は同じ班なれたのだが……

「部屋は男女で別だからなぁ……」

 そう、夜は男女別々の部屋になってしまうので香奈ちゃん一人だけ取り残されてしまうのだ。

「香奈一人じゃ、この前みたいに会話であせっちゃうかもしんないね」

「じゃあ、俺が女子の部屋に行って……ぐへぇっ!」

「やらしいこと考えない!」

 にやけた瞬間、春ちゃんにグーで殴られる勇。お前、哀れだな……

「先生にも相談したんだけど、いろんな事情で一人部屋とかには出来ないんだって」

 そんな感じで真剣に話を進める俺と春ちゃん。……勇はいいや。

「あの、星川く……じゃなくって卓真君。これ食べる?」

 香奈ちゃんは悩んでいる俺に気を使ってなのか、箸につまんだ卵焼きを口元に差し出してくる。

 うわー! 何てうれしいシチュエーション! まさか記憶喪失になった香奈ちゃんがこんなことしてくるとは

思わなかったよ! やっぱ別れなくて良かった!


 というわけで遠慮なく箸に摘まれた卵を頬張ろうとすると──

「香奈―! そんなにのほほんとしてる場合じゃないんだよ!」

「あうー やーめーてーよー」

 いきなり押されて俺は地面へと体制を崩す。

 香奈ちゃんが差し出してきた卵焼きは地面へと落ち哀れな姿に。隣ではゆっさゆっさと香奈ちゃんの肩を揺さ

ぶる春ちゃん。


 ああ……せっかくのチャンスが……



 昼休みが終わるとホームルームが始まった。

 今日のホームルームは林間学校に行く際のバスの席順を決めるとの事。バスの席は班毎に固定されるらしい。

 というわけで俺達の班は班長の千代田瑠奈(ちよだるな)を中心にして話を進めていく。

「卓真と香奈は恋人同士だから隣でいいよね?」

「えっ? い、いや……別に……」

 千代田さんに直球ストレートでそんなことを聞かれてしまったので、妙に照れてしまう。隣では香奈ちゃんが

しゅんとする。


 あ、何かまずかった……?

「え、えっとじゃあ隣がいいかな?」

 そう言い直すと香奈ちゃんの顔に笑顔が戻る。

 ……やっぱり他の人と隣じゃ不安なのかな?

「里桜はどうする? 勇の隣?」

 次に瑠奈ちゃんに話を振られたのはツインテールの少女、桑本里桜(くわもとりお)。記憶喪失になる前、香

奈ちゃんと一番仲が良かった娘だ。


 里桜ちゃんはすぐに顔を歪めて反論の声を上げる。

「えーっ! 馬鹿勇の隣は絶対嫌だー!」

 その発言が頭にきた勇は女性に対して口にしてはならない言葉を吐き出す。

「俺だってお前みたいなキモブス(気持ち悪い不細工の略らしい)となんか座りたくねーよ!」

 もちろん里桜ちゃんは気持ち悪くも不細工でもない。むしろ可愛い部類に入る女の子だ。

 てか、そんなこと里桜ちゃんに言ったら……

「きっ、キモブスって……もーこいつさいてー!」

 拳をグッと握る里桜ちゃん。そして、勇の腹部に向かって何発もの正拳突き!

 あーやっぱり……

 一見、華奢な体つきの里桜ちゃん。実は空手部期待のニューフェイスなのだ。

 どっからそんな力出してるんだろう……

「ぐっ、ごっ、がっ、あでーっ! つっ、こ、こいつやりやがったなー!」

 柔道部所属の勇も負けていられないとばかりに反撃を開始する。

 勇は里桜ちゃんの背中へと回り込み、左右に結ばれた髪を掴んで思いっきり引っ張った。

 ……何をするかと思ったら反則技かよ。

「いたっ! いったーい! や、やめてよ! ヘンタイ! セクハラ!」

 本当この二人仲悪いな……まぁ、前からの事だけど……

「ホシタクー! お前が香奈ちゃんの恋人だろーと隣の席は俺が貰う!」

 そんな呆れている俺に掴みかかってきたこいつは財前金成(ざいぜんかねなり)。

 家は貧乏。財前金成という名前なのに貧乏。

 因みに金成は香奈ちゃん目当てでこの班に入ったらしい。

 首に瞬時に手を回されて思いっきり絞められる。

 ぐー! 死ぬ死ぬ……こいつは俺を倒せば香奈ちゃんの隣の席に座れると思ってるのか……?

 や、やばい……だんだん意識が遠のいていく……さよなら……香奈ちゃん……

「た、卓真君! 卓真君!」

 最後に香奈ちゃんの声が聞けてよかったよ……



 俺の意識が戻った頃には話し合いは終了していた。

 最終的には俺と香奈ちゃん、勇と里桜ちゃん、そして千代田さんと金成という席順になったらしい。

 勇と里桜ちゃんは険悪ムード。金成は何か俺を睨んでるし……

 この班、大丈夫かな……

 香奈ちゃんのこともあるのに大変な事になりそう……



2008年1月10日 公開







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